全4回にわたって「CVP分析をわかりやすく解説シリーズ」の記事を書いていますが、第3回となる今回は、いよいよCVP分析のメインテーマである「損益分岐点」について解説します。
損益分岐点を理解できれば、「◯円の利益を得る場合には、どのくらいの売上高があれば良いか」といったことを求められるようになります。
今回の記事では、損益分岐点(損益分岐点売上高)について、意味や求め方、経営への応用方法などについてわかりやすく解説します。
損益分岐点は経営する上でとても役立つので、是非とも知ってほしいと思います!
損益分岐点・損益分岐点売上高とは?
計算方法をお伝えする前に、まずは損益分岐点の意味を解説します。
損益分岐点とは、利益が0となる時の売上高や販売数量を意味します。
特に利益が0円となる時の売上高は、「損益分岐点売上高」と呼ばれます。
グラフ上で見てみると、損益分岐点は「売上高=費用」となる点になります。
冒頭でもお伝えしましたが、損益分岐点は経営する上でとても役立つ指標です。
たとえば損益分岐点売上高は、利益が0円となる時の売上高です。
これを踏まえると、実際の売上高が損益分岐点売上高を下回れば赤字、上回れば黒字になると判断できます。
また、最低でも損益分岐点売上高に相当する収益を得られれば、業績を悪化させずに済むと判断できます。
損益分岐点・損益分岐点売上高の計算方法(求め方)
実際に実務で使う際には、損益分岐点売上高を求める公式を覚えておけば問題ありません。
しかしただ公式を覚えるとなると、時間が経つにつれて忘れやすいです。また、意味を理解せずに使用しても使いこなせているとは言えません。
損益分岐点売上高についてしっかり理解するために、ここでは一から損益分岐点(売上高)を計算する方法を解説します。
基本的なことになりますが、利益とは売上高から費用を差し引いた金額となります。費用を「変動費」と「固定費」に分けた上で、利益を式で表すと以下のように表せます。
- 利益(P) = 売上高 − 変動費(VC) − 固定費(FC)
ところで損益分岐点売上高とは、利益が0円となる売上高でした。つまり利益が0円となる場合と損益分岐点売上高(S)の関係を式で表すと、下記のようになります。
- 0 = 損益分岐点売上高(S) − 変動費(VC) − 固定費(FC)
ここで変動費(VC)を売上高(S)を使って表すのが、損益分岐点を計算するコツです。
そのためには、変動費率という指標を算出しなくてはいけません。
変動費率とは売上高に占める変動費の割合であり、変動費を売上高で割ることで求められます。
変動費率(α) = 変動費(VC) ÷ 売上高(S)
たとえば売上高が100万円、変動費が40万円であれば、変動費率は(60万円÷100万円)×100=60%となります。
上記の式を変形し、変動費を売上高(S)を使って表してみましょう。
変動費(VC) = 変動費率(α)×売上高(S)
つまり変動費(VC)は、売上高に変動費率を掛け合わせた金額と同値になるわけです。
以上より先ほどの式は、下記のように表せます。
- 0 = S − αS − FC
式を見やすくするために整理すると、以下のようになります。
- (1−α)S = FC
最後に(1-α)を両辺に掛け合わせることで、損益分岐点売上高を求められます。
- 損益分岐点売上高(S) = FC ÷ (1 – α)
つまり損益分岐点売上高は、固定費を(1−変動費率)で割れば求められるのです。
ちなみに(1-変動費率)は、限界利益率とも呼ばれます。
公式を暗記しなくても、上記のように順序立てて考えれば損益分岐点は求められます。
慣れないうちは、一から計算した方が損益分岐点についての理解が深まると思います。
なお今回の説明では、変動費と固定費という概念が出てきました。
変動費と固定費の違いについて詳しく知らない方は、下記の記事で解説しているのでもし良かったら参考にしてください!
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損益分岐点売上高を求める公式
損益分岐点売上高は、 前項の最後に出てきた式(下記参照)を使えば簡単に導き出せます。
- S = FC ÷ (1- α)
理解を深めるために、例題を使って実際に公式の使い方を見てみましょう。
例)実際の売上高:1,000万円、固定費:500万円、変動費率(a):0.4(40%)
公式を使うと損益分岐点売上高は、下記の通り算出できます。
- S = 500万円 ÷ (1- 0.4) ≒ 833万円
損益分岐点売上高が833万円である一方で、実際の売上高は1,000万円でした。
つまりこのケースの場合、黒字であると判断できます。
損益分岐点売上高の経営計画への応用
損益分岐点売上高の公式は、「目標とする利益を得るためにはどの程度の売上高が必要か?」を算出する際にも役立ちます。
実際に算出する際には、下記の公式を使います(なぜこのような公式となるかの説明は省略します)。
- 目標の売上高(S) = FC + 目標利益(P) ÷ (1-α)
要するに、損益分岐点売上高を計算する公式の分子に目標利益(p)を足し合わせるだけです。
たとえば先ほどの例で目標利益を800万円と設定すると、達成すべき売上高は下記のように算出されます。
- S = (500万円 + 800万円) ÷ (1-0.4) ≒ 2,167万円
簡単に達成すべき売上高を計算できるので非常に便利です。
損益分岐点(売上高)は高いのと低いのどちらが良い?
結論から言うと、利益の得やすさを高める上でも、より利益の伸び幅を高める上でも、損益分岐点は低い方が良いです。
利益の得やすさの観点で見ると?
こちらについては極端な例をあげると理解しやすいと思います。
損益分岐点がものすごく高い(100億円)場合は、損益分岐点は利益も損失も発生しない点であるため、売上高が100億円を下回ると赤字になります。
よほど商品やサービスがヒットしない限り100億円の売上高を達成するのは困難であるため、かなり高い確率で赤字となってしまいます。
一方で損益分岐点がものすごく低い(10万円)場合は、売上高が10万円さえ超えれば黒字となります。
ビジネスで年間10万円をあげるのはそこまで難しくないので、かなり高い確率で黒字となるでしょう。
以上の例から分かるように、損益分岐点は低ければ低いほど、利益を得やすい(黒字になりやすい)のです。
利益の伸び幅の観点で見ると?
前回の記事でお伝えしましたが、限界利益率が高いほど、売上が伸びた際の利益の伸び幅も大きいです。
ところで限界利益率は、損益分岐点を求める公式の分子(1-α)と同値になります。
それを踏まえて、限界利益率が低いケース(利益が伸びにくい)と高いケース(利益が伸びやすい)を使って、損益分岐点売上高を求めてみましょう。
例)
A社の限界利益率:90%(0.9)、B社の限界利益率:10%(0.1)
なお、純粋に限界利益率の影響を見るために、固定費500万円は両社同じとします。
- A社の損益分岐点売上高:500万円÷0.9 ≒ 556万円
- B社の損益分岐点売上高:500万円÷0.1 ≒ 5,000万円
極端な例ですが、限界利益率が高いA社ほど損益分岐点売上高は低くなるのが分かります。
つまり言い換えると、限界利益率を高めたい(より利益を多く得たい)のであれば、損益分岐点は低い方が良いのです。
限界利益については、前回の記事で詳しく解説していますので、もし限界利益をよく知らない方は参考にしてくださると嬉しいです!
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以上のように、「利益の得やすさ」や「利益の伸ばしやすさ」の点のどちらから見ても、損益分岐点は低い方が良いと言えます。
もし新規事業を立ち上げるのであれば、なるべく損益分岐点が低くなるビジネスモデルを考えた方が良いでしょう。
損益分岐点・損益分岐点売上高のまとめ
今回の記事では、損益分岐点(売上高)の意味や求め方、実務への活用方法などについて解説しました。
損益分岐点を意識して経営すれば、より利益を得やすくなる効果が期待できます。
是非とも日頃から、損益分岐点を意識して経営してみましょう!
なお次回の記事では、損益分岐点比率や安全余裕率について解説します。
こちらも実務で役立つ指標なので、次回も是非ご覧ください!