カニバリゼーションとは、自社の商品・店舗同士で市場シェアや売上高を奪い合う現象です。
基本的にはマイナスの影響が生じるものの、戦略的に活用して業績を伸ばした事例もあります。
今回の記事では、カニバリゼーションの意味や原因、回避する方法、戦略的な活用事例などをわかりやすく解説します。
カニバリゼーションとは
はじめに、カニバリゼーションの意味やデメリット、原因を解説します。
カニバリゼーションの意味
本来カニバリゼーションとは、共食いという意味の用語です。
そこから転じて、マーケティングでは「同じ企業内の製品間で同じ市場の顧客を奪い合う現象」を表します。
たとえばある会社がA化粧品、B化粧品を販売した場合、AとBで顧客を奪い合ってしまうことをカニバリゼーションと呼びます。
カニバリゼーションで生じるデメリット
カニバリゼーションによるデメリットは以下の2つです。
経営資源を奪い合う(費用や人員を無駄に浪費する)
カニバリゼーションが発生すると、資金や人員などの経営資源を無駄に浪費する可能性があります。
たとえば、ある市場で得られる売上が1億円、その市場で1種類の商品を製造・販売するのに1,000万円の費用がかかると仮定します。
1種類の商品のみを販売した場合、1億円の売上を獲得するのに1,000万円の費用がかかります。
一方、この市場に類似する2種類の商品を販売した場合、1,000万円×2=2,000万円の費用が発生します。
ところが、2種類の商品同士が同一市場の顧客を奪い合うため、この市場で得られる売上は変わらず1億円となります。
費用が増えたにもかかわらず売り上げが増えないため、経営資源の使い方は非効率となっています。
競争力が低下するリスクがある
カニバリゼーションが発生すると、必要以上の経営資源を投入することになります。
その結果、研究開発や競合調査、新規参入への対策などに十分な経営資源を割くことが難しくなります。
研究開発や新規参入への対策などが疎かになると、将来的に市場シェアを他社に奪われてしまい、自社の収益性が低下するリスクがあります。
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カニバリゼーションの原因
カニバリゼーションが生じる原因は、主に2つあります。
商品・サービス間における機能やコンセプトの類似
商品・サービス間で機能やコンセプトが似ていると、販売相手となる顧客(ターゲット)が同じとなるため、カニバリゼーションが生じやすくなります。
ドミナント戦略の実施
ドミナント戦略とは、一定の地域で集中的に店舗を出店する経営戦略です。
ドミナント戦略を行うと、その地域内におけるブランド力や知名度が高まることで、強力な参入障壁や競争優位性を確立できる可能性があります。
ただし、地域が同じである以上、ターゲットとなる顧客層も同じとなりやすいです。
そのため、同じ地域に複数の店舗を出店すればするほど、カニバリゼーションが生じる可能性は高くなります。
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カニバリゼーションの対策
カニバリゼーションの状態を回避するには、下記2つの対策が有効です。
- 商品ごとに異なるターゲットを設定する
- 企業間での意思疎通を活発に行う
- 商品間の違いを顧客に理解させる
以下では、それぞれの対策をくわしく解説します。
商品ごとに異なるターゲットを設定する
カニバリゼーションは、商品を販売する顧客(ターゲット)が同じである場合に発生します。
そのため、商品・サービスのカテゴリーが類似・同一(市場が同じ)でも、ターゲットが異なればカニバリゼーションは発生しにくくなります。
つまり、同一市場内で複数の商品を展開するならば、商品ごとに異なるターゲットを設定すれば良いのです。
たとえば自動車市場を例にすると、カジュアルな低価格と高級感あふれる高価格車では、市場は同じでもターゲットは異なります(低価格車はファミリー層、高価格車は富裕層)。
顧客層が異なるため、カニバリゼーションは発生しにくくなります。
同一市場内で複数商品を展開する場合は、STP分析によって顧客層を分類し、既存製品とは異なるターゲットを設定しましょう。
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企業内での意思疎通を活発に行う
根本的な対策として、企業内での意思疎通を活発に行うことも重要です。
事業規模が大きい会社であるほど、部門間で商品を開発する際に十分な意思疎通が図れていない傾向があります。
意思疎通を図らないと、他の部門とコンセプトや機能が似通った商品を開発してしまい、カニバリゼーションにつながります。
そうならないためにも、部門間で意思疎通を行い、各部門がどのような顧客相手に、どのような製品を販売しているかを把握することが重要です。
そうすれば、部門間でのカニバリゼーションを回避しやすくなるでしょう。
商品間の違いを顧客に理解させる
すでにカニバリゼーションが発生している場合、商品間の違いをターゲットとしている顧客に理解させることが効果的です。
現時点でカニバリゼーションが生じていても、実際には商品間の機能やコンセプトなどが異なることはあり得ます。
その違いを広告やプロモーションなどの手段でアピールすることで、商品間の違いを顧客に認識してもらえる可能性があります。
商品間の違いを認識してもらうことで、それぞれの商品について、異なるターゲットに販売できるようになります。
戦略的カニバリゼーションとは
この章では、戦略的カニバリゼーションの意味とメリットをお伝えします。
戦略的カニバリゼーションの意味
ここまでお伝えしたとおり、カニバリゼーションは経営資源を無駄にしたり、競争力を低下させたりと、企業にとって好ましくない現象です。
しかし、あえてカニバリゼーションを引き起こすマーケティング戦略もあります。
それが「戦略的カニバリゼーション」です。
戦略的カニバリゼーションのメリット
戦略的カニバリゼーションを引き起こすメリットは2つあります。
商品力やコスト競争力の強化
1つ目は、商品間(部門間)の競争を促進し、商品力やコスト競争力を強化できることです。
部門別に成果が評価される企業の場合、カニバリゼーションが生じると、各部門がお互いにライバル同士となります。
お互いに売上を伸ばすために努力するため、結果的に商品の品質やデザイン性などが良くなったり、より低コストで生産・販売できるようになります。
市場シェアの向上、参入障壁の形成
同じ市場で商品を複数展開すると、その市場内に自社のブランドが複数ラインナップされるようになります。
「〇〇の商品は〇〇会社のものだけ」と顧客が想起できるほど自社商品の流通量が増えれば、競合他社の製品を市場から追い出し、自社製品の市場シェアを向上できる可能性があります。
また、自社製品のブランド力や知名度が大幅に高まれば、新規参入の企業に対して高い参入障壁を形成することも可能です。
参入障壁を形成することで、新規参入の企業に顧客を奪われるリスクが軽減し、安定かつ長期的に利益を得られるようになります。
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カニバリゼーションに関する事例
最後に、実際にカニバリゼーションが生じた企業の事例を2例紹介します。
いきなり!ステーキの急速な店舗拡大によりカニバリゼーションが発生した事例
ペッパフードサービスは、リーズナブルにステーキを楽しめる「いきなり!ステーキ」の店舗を全国で急速に拡大し、事業をスピーディーに拡大することに成功しました。
しかし、狭い地域にたくさんの店舗を出店するドミナント戦略が仇となり、店舗同士で顧客を奪い合う「カニバリゼーション」が発生してしまいました。
カニバリゼーションが発生した結果、2019年2月の売上高は前年同月比で約75%ほどまで減少したとのことです。
参考:いきなり!ステーキ、いきなり拡大し失速 日経ビジネス電子版
ディズニーがカニバリゼーションを防いだ事例
東京ディズニーランドと東京ディズニーシーは、隣接しており、かつ同じディズニーブランドであるため、開業当初はカニバリゼーションの発生が危惧されていました。
そこでディズニーランドを運営するオリエンタルランドは、カニバリゼーションの回避を目指してさまざまな施策を行いました。
具体的に同社は、以下のようにランドとシーの違いを明確化しました(開業当初の施策です)。
ディズニーランド | ディズニーシー | |
園内の景観 | 外部の景観が見えないように演出 | 東京湾の景色を意図的に見せる |
コンセプト | ファミリー•子供向け(キャラクターの露出が多め) | 大人向け(お酒を飲めるレストランがあるなど) |
こうした施策が功を奏して、ディズニーランドとシーのカニバリゼーションを回避することに成功したとのことです。
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カニバリゼーションのまとめ
自社の商品間でカニバリゼーションが発生すると、競争力の低下や経営資源の浪費などにつながる恐れがあります。
そのため、商品間でターゲットを変えたり、企業内での意思疎通を活発に行ったりすることで、カニバリゼーションを回避することが重要です。
ただし、あえてカニバリゼーションを戦略的に引き起こすことで、市場シェアの向上や参入障壁の形成を実現できる可能性もあります。
不必要なカニバリゼーションは極力回避しつつ、必要に応じて戦略的にカニバリゼーションを行うと良いでしょう。
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