あらゆる物事に幅広く手をつけるよりも、何か一つに特化(集中)した方が、大きな結果を得られる可能性が高いです。
これはビジネスでも同じことが言えます。
幅広いターゲットを対象に商品やサービスを提供するよりも、ごく一部の地域や顧客層に絞って商品やサービスを開発・販売した方が、大きな成果を得られるかもしれません。
こうした一部の分野に特化する経営戦略は、「集中戦略」と呼ばれています。
この記事では、中小企業やベンチャー企業におすすめの集中戦略について解説します。
種類やメリット・デメリット、成功事例に加えて、集中戦略を成功させるポイントもわかりやすく解説するので、ぜひ参考にしてくれると嬉しいです!
集中戦略とは?
まず最初に、集中戦略の意味と種類をカンタンにご説明します。
集中戦略の意味
集中戦略とは、自社の強みを活かせる一部の市場に限定したビジネスを行い、そこにヒトやカネといった経営資源を集中的に投下する経営戦略です。
つまり、限られた地域や一部の収入層といったニッチ市場に限定してビジネスを行うのが集中戦略です。
集中戦略は、ハーバード・ビジネス・スクールのポーター教授が提唱した競争優位性を確立する上で有効な戦略の一つです。
ちなみにポーター氏が提唱した競争優位背を築く戦略は、集中戦略に加えて「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」の三つです。
それぞれのメリットとデメリットを踏まえて、自社に適した競争戦略を選ぶのが重要となります。
「差別化集中」と「コスト集中」
集中戦略は、さらに「差別化集中」と「コスト集中」の二種類に分けることができます。
差別化集中戦略
差別化集中戦略とは、ある特定の市場にフォーカスし、その中で差別化を図る戦略です。
ただでさえニッチな市場で差別化を図ることで、唯一無二のブランドを確立することを意図した経営戦略といえます。
「ビジネスで成功するには差別化が大事!」こんな感じのフレーズを、経営やマーケティングに携わる方であれば一度は耳にした経験があると思います。考えてみると差別化は大事だなあ・・・と何となくは思うでしょうが、差別化はなぜ大事なのでしょうか?[…]
コスト集中戦略
一方でコスト集中戦略とは、特定の狭い市場の中で、低コストで商品やサービスを提供することで競争優位性を築く経営戦略です。
他の企業とほぼ同じ内容の商品やサービスを、より低コストで提供することで、より利益率を高くしたり、顧客シェアを奪うことを目的とします。
世界的に有名な経営学の教授ポーター氏は、企業が競争優位を確立する手段として、三つの基本戦略を提唱しました。その中の一つに「コストリーダーシップ戦略」があります。コストリーダーシップは有名な経営戦略ですが、すべての企業に適しているとは[…]
集中戦略のメリットとデメリット
他の競争戦略と同様に、集中戦略にはメリットとデメリットの両方があります。
この章では集中戦略のメリットとデメリットをそれぞれ紹介するので、ご自身の経営している(もしくは経営する予定)会社に適しているかをチェックしてみてください。
集中戦略で得られるメリット
集中戦略を遂行すると、主に以下3つのメリットを期待できます。
自社の強み(経営資源)を最大限発揮できる
集中戦略を行う最大のメリットは、自社の強みや経営資源を最大限発揮できる点です。
集中戦略では、規模が小さく自社の強みを活かせる市場(顧客)をターゲットとします。
つまり自社の強みを規模の小さい市場に集中的に投下できるため、少ない経営資源で最大の結果を期待できます。
また、経営資源を小さな市場に集中的に投下することで、格上相手に勝てる可能性がある点もメリットの一つです。
経営資源が豊富な大手企業との競争になった場合、相手は分散させた経営資源の一部をそのビジネスに投入する一方で、こちらは経営資源を集中投入してビジネスを行います。
経営資源の全体量では負けていても、その事業分野に投入する量では上回ることで、格上企業相手でもシェアの奪い合いに勝てる可能性があるのです。
以上の理由から、経営資源の質は良いが量が少ないという中小企業にとって、集中戦略はとても最適な戦略なのです。
競合他社との競争を回避しやすい
集中戦略で狙うニッチ市場は、基本的に強力な競合企業が存在せず、競合企業の数自体も少ないです。
そのため、競合他社との競争にあまり巻き込まれることなく、十分な収益を得やすいです。
負け戦をせずに事業を成長させやすい点は、集中戦略の大きなメリットといえます。
確固たるブランドを確立しやすい
集中戦略には、マーケティングの面から見ても大きなメリットがあります。
ニッチな商品やサービスを利用する顧客から見ると、その商品やサービスを販売する企業自体少ないです。
そのため集中戦略により、一度顧客に受け入れられる商品やサービスを販売できれば、継続して自社商品(サービス)を利用してもらえます。
継続して自社商品のみを利用してもらえるため、広い市場でビジネスを行うよりも強力なブランドを確立しやすいです。
強力なブランドを確立すれば、安定的に収益を得られる上に、商品やサービスの単価を上げることも可能でしょう。
また仮に他社との競争に巻き込まれても、ブランドがすでに確立しているため、シェアを失わずに済む可能性が高いです。
集中戦略で注意したいデメリット
集中戦略にはメリットが多くありますが、むやみに過信するのは禁物です。
というのも、集中戦略には下記2つのデメリットもあるからです。
強力な競合他社の参入により、急激にシェアを失う可能性がある
集中戦略でもっとも注意したいデメリットは、競合他社の参入により急激にシェアを失う可能性がある点です。
あるニッチ市場で集中戦略を遂行し、その市場で莫大な利益を得られたとしましょう。
そうなるとその市場が稼げることが広く知れ渡り、経営資源を豊富にもつ大手企業が参入してくる可能性があります。
経営資源を豊富にもち、かつネームバリューのある大手企業が参入した場合、あっという間に顧客を奪われてしまう恐れがあります。
大手が参入してくる前に確固たるブランドを確立できていれば、シェアを大幅に奪われる事態を回避できるかもしれません。
ですがそうでない限り、経営資源の質やブランド力で劣る大手企業に勝ち続けるのは難しいでしょう。
環境の変化によりニッチ市場でなくなったり、顧客の需要が減少するリスクがある
集中戦略の持つ二つ目のデメリットは、市場自体がニッチでなくなったり、顧客の需要が減少するリスクがある点です。
たとえば商品が売れ続けたり新規参入が相次ぐと、市場が大きくなってもはやニッチ市場では無くなります。
そうなると競争も激しくなり、集中戦略の優位性が失われてしまいます。
もしくは技術力の進歩によりより優れた商品が出てきたら、自社の商品を利用してもらえなくなります。
どれほど強みを活かせる市場であっても、商品やサービスを利用する顧客がいなければ利益は得られません。
こうした環境の変化に弱い点は、集中戦略を行う上で回避できないデメリットなので注意しましょう。
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集中戦略の成功事例〜スズキはなぜ成功したのか〜
集中戦略を実践し、大成功を収めた企業は数多く存在します。
その中でもモデルケースと呼べるものといえば、自動車メーカーの「スズキ」です。
自動車メーカーであるスズキは、創業以来自動車メーカーとして大きく成長し続けてきました。
ここ数年も業績は上昇傾向にあり、2018年度には3兆8,000万円もの売り上げを得ました。
そんなスズキが大成功した理由は、軽自動車分野に特化した集中戦略にあります。
スズキは自動車業界の中でも、軽自動車の販売に特化した集中戦略を長年続けてきました。
その結果、2006年までの34年間連続で軽自動車の販売において国内No.1の実績を挙げるほどの大成功を収めました。
トヨタや日産などの大企業に引けを取らないほどの成功を収めているのは、まさにこうした強者との競争を避ける「集中戦略」を徹底したからであると言えるでしょう。
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集中戦略を成功させるポイント
集中戦略を成功させる方法には、確固たる正解がありません。
ですが個人的には、圧倒的に優れている強み(コアコンピタンス)を適用できる市場にフォーカスすることが、集中戦略を成功させる鍵だと思います。
そもそも集中戦略は、限られた小さな市場に経営資源を集中的に投入する戦略です。
そのため、強みを存分に発揮できる市場に集中すれば、理論上は最大限の成果を期待できると考えられます。
極端な例ですが、運動が苦手な人がスポーツを1年間練習するよりも、運動が得意な人がスポーツを1年間みっちり練習する方が、上達する度合いは大きいでしょう。
このことがビジネスでも言えると思います。
自社の得意とする能力を最大限発揮できる市場を見い出し、そこに人員や資金を集中的に投入すれば、成功する可能性を高めることができるでしょう。
自社の強みが集中戦略を遂行する上で役に立つかを知りたい方は、下記の記事を参考にしてみてください!
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集中戦略のまとめ
今回の記事では、集中戦略の意味や種類、メリット・デメリット、成功事例などを解説してきました。
集中戦略は、限られた経営資源を最大限活かす上でとても有効な経営戦略です。
幅広い顧客をターゲットとして、経営資源が豊富な大手企業と真っ向から勝負しても勝ち目はありません。
中小企業やベンチャー企業には、集中戦略により賢く勝ち抜く戦略が適しているでしょう。
今後ご自身でビジネスを始めたい方は、ぜひ集中戦略を実践してみてください!