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創発的戦略とは〜想定外のトラブルを成長の糧にしよう!〜

創発的戦略

「経営戦略」と聞くと、役員たちが会議室に何回も集まって、長い時間をかけて作るものだとイメージする人が多いのではないでしょうか?

たしかに優秀な人が入念に分析調査した上で戦略を立てることは大切です。

しかし必ずしも、あらかじめ策定した経営戦略が有効とは限りません。

むしろ事業を進めていくうちに困難にぶち当たり、そこから得た気づきを経営戦略に反映させた結果、大成功を収めるケースも少なくありません。

今回は、そんな想定外のトラブルを成長の糧にすることで得られる「創発的戦略」の意味やメリット、事例などを解説します。

創発的戦略とは?

まず初めに、カナダの経営学者ミンツバーグ氏によって提唱された「創発的戦略」の意味やポイントを解説します。

創発的戦略の意味

創発的戦略とは、最初に経営戦略を策定した際には想定していなかった偶発的な事象に対応することで、事後的に生み出される経営戦略を意味します。

要するに環境の変化や思わぬトラブルによって、当初とは全く違ったものとなった戦略を「創発的戦略」と呼ぶのです。

たとえば新規事業の顧客を獲得するために、「ひたすら営業をかける戦略」を立てたとしましょう。

ひたすら営業をかけていくうちに、ある日から「広告宣伝に重点を置く戦略」の方が有効であることに気づいて、広告での宣伝に重点おいた結果、急激に新規顧客数を増やすことができました。

この例では、「ひたすら営業をかける戦略」から「広告宣伝に重点を置く戦略」に変更しており、まさに創発的戦略により成功した訳です。

創発的戦略のポイント

創発的戦略を行う上で重要なポイントは、予期せぬ事象(トラブルや環境変化など)を会社経営を脅かす要因としてではなく、「学習の機会」として認識し、より良い経営戦略の策定に向けて積極的に活用する点です。

日本の企業の多くは、事前に策定した経営戦略を重視する傾向が強いです。

仮に予想だにしない問題が生じてしまうと、「計画通りに事業を行えない!」と考えてしまい、途端に事業運営が頓挫してしまいます。

たとえば自社で販売してる商品が売れなくなったら、計画策定や事業運営に費やしてきた時間やお金が無駄になったと思うでしょう、

一方で創発的戦略では、予想外のトラブルや事態を成長の糧として捉える必要があります。

たとえば強力な代替品の出現によって販売している商品の需要が激減する恐れがある場合には、販売する商品のことなる使い方を顧客に提案したり、他の顧客層にアプローチをかけるといった戦略に切り替えます。

このように、発生したトラブルに応じて、都度経営戦略を修正し続けるのが創発的戦略のポイントとなります。 

創発的戦略の事例〜ホンダの米国市場への進出〜

創発的戦略により成功した事例として、国内を代表する自動車メーカー「ホンダ」の米国市場への進出を見てみましょう。

ホンダは1958年にアメリカへの海外進出を果たしました。

当初ホンダは、「自社が大型バイクに強みを持っていたこと」や「アメリカで大型バイクが主流だったこと」を理由に、大型バイクを主力製品として販売しました。

自社の強みを活かして機会を生かしている点でまさに理想の経営戦略であり、一見すると間違いなく大成功を収めただろうと思えるでしょう。

しかしアメリカ人は日本人よりもスピードを出して長距離運転していたため、オイル漏れやクラッチ消耗という不具合が相次いで発生し、想定と比べて業績が伸びませんでした。

あらかじめ計画した経営戦略が上手くいかず「米国市場への進出は失敗か?」と思われた矢先、思わぬ形で起死回生のチャンスが訪れました。

それは、現地スタッフが移動手段として用いていた小型バイクに対して、多くの現地人が興味を示していたことです。

これに気づいたホンダは、主力商品を小型バイクに切り替える戦略をとりました。

その結果見事に小型バイクは大ヒットし、同社の米国市場への進出は大成功を収めました。

「思うように大型バイクが売れなかった」という予想外のトラブルや、「現地の人が小型バイクに興味を示した」という予想外の事態を上手く成功の糧にできたからこそ、同社の米国市場への進出は成功したと考えられます。

大型バイクの販売から小型バイクの販売に切り替えたことで大成功したホンダは、まさに創発的戦略のお手本とも言える成功事例です。

参考:創発的戦略と学習型戦略

創発的戦略のメリットとデメリット

次に、創発的戦略のメリットとデメリットを簡単にご紹介します。

創発的戦略のメリット

創発的戦略のメリットは、予測できない環境変化(トラブルやチャンス)に対処できる点です。

企業経営に限った話ではありませんが、あらかじめ策定した計画や戦略通りに物事が進むケースはあまり多くありません。

あらかじめ策定した経営戦略を絶対視してしまうと、万が一上手くいかなかった時に何もできなくなってしまいます。

一方でトラブルを成長の糧と捉えておけば、何かしらの環境変化が生じる度に「創発的戦略」を作り上げて、環境に適応しながら成長し続けることができます。

創発的戦略のデメリット

環境変化に対応しやすいメリットを持つ創発的戦略ですが、創発的戦略を重視しすぎるのも実は危険です。

というのも、創発的戦略には「行き当たりばったりの企業経営となるリスク」があるからです。

そもそも創発的戦略とは、偶然遭遇した想定外の事態に応じて、その都度経営戦略を修正したものです。

一見すると正しい戦略に思えますが、経営ビジョンや目標との一貫性が取れなくなる恐れがあります。

また、複数の事業間でのシナジー効果が失われたり、自社の強みを存分に発揮できない非効率な経営となる可能性もあります。

こうなると長期的には、かえって業績が悪化する可能性があるので注意が必要です。

変化の激しい昨今は「創発的戦略と意図的戦略のバランス」が重要!

ここ20年、IT技術の急速な進歩や消費者ニーズの多様化などの影響により、企業を取り巻く経営環境の変化が激しくなっています。

20年前と比べて時価総額トップ20の企業が大きく変わっている現状でもわかるように、今上手くいっていても数年単位で市場自体が衰退する可能性もあります。

今後を予測すること自体難しい昨今においては、意図的戦略(事前に定めた経営戦略)のみに傾倒するのではなく、創発的戦略もバランスよく取り入れることが大事です。

ここで重要なのは、創発的戦略と意図的戦略の「バランス」です。

創発的戦略には「変化に対応しやすい」というメリットこそあるものの、行き当たりばったりになるデメリットもあります。

事前の戦略策定を軽視すると、ただ闇雲に資金を費やして大損失をこうむるかもしれません。

したがって、事前に入念に経営戦略を策定しつつ、万が一その経営戦略に不備があったら、その都度最適な戦略に修正していく姿勢が大事なのです。

意図的戦略を入念に策定しつつ定期的に最適な創発的戦略を見いだしていけば、新規事業が上手くいく可能性を高めることができるでしょう。

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創発的戦略のまとめ

今回お伝えしたように、想定外の事態で得られる創発的戦略は、事業を成長させる上でとても有効な場合が多いです。

むしろ近年は事業環境の変化が激しいため、想定外の事態がほぼ必ず生じるといっても過言ではないでしょう。

そんな経営環境を踏まえると、あらかじめ定めた経営戦略のみならず、偶然から生まれた創発的戦略にも目を向ける必要があるのです。

今後経営や新規事業に携わる機会があれば、創発的戦略を最大限活用してみるのをオススメします。