突然ですが皆さんは、株式や不動産への投資をやっていますか?
どの資産に投資するかを判断するとき、単純な好き嫌いや経営戦略、市場の成長性など、様々な評価基準があります。
この記事では、投資の評価基準の一種である「期待収益率」をご紹介します。
新規で口座を開設して資産運用したい方や、事業や会社に資本を投資する際の判断指標を知りたい方は参考にしてください。
期待収益率とは
はじめに、期待収益率の意味や役立つ場面をお伝えします。
期待収益率の意味
期待される収益の率(割合)という用語が表すとおり、投資により予想される収益の比率を意味します。
投資の収益率は、経済動向をはじめとした外的要因により変化します。
たとえば、好景気であれば収益率は高い一方で、不景気だと収益率は低くなります。
したがって期待収益率には、「経済動向(外的要因)に応じて変化する収益率の加重平均」を用いるのが一般的です。
加重とは、重さを付け加えることを指します。
つまり加重平均は、生じ得る各要因に重みを付けた上で算出する平均値です。
加重平均を利用すれば、さまざま経済の動向およびその発生確率を考慮できるため、より正確な予想が可能となります。
期待収益率はどんなシーンで役に立つの?
期待収益率のメリットは、ビジネスの世界においてさまざまなシーンで活用できる点です。
最も馴染みがあるのは、株式市場への投資や不動産の運用でしょう。
期待収益率を計算すれば、投資すべきかどうかをより合理的に評価できるようになります。
また、配当を合計した金額をもとに株価の理論値を求める際にも、期待収益率が必要です。
加えて、DCF法による企業価値の計算やM&A(合併と買収)の実行可否を決定するときなどにも使用されます。
特にDCF法で用いるWACC(加重平均資本コスト)を計算するときには、株主が要求する期待収益率(株主の資本コスト)が不可欠です。
経営者やファイナンスに携わる職業の人でなくても、期待収益率の基本的な部分については知っておくと便利でしょう。
M&Aや株式投資などの場面で重要な概念となるのが「企業価値」です。企業価値を算出すれば、「その会社をいくらで売買すべきか」とか「株価はいくらくらいが妥当なのか」などの判断材料にすることが可能です。企業価値の計算方法には様々あ[…]
期待収益率の計算(個別の資産)
各シチュエーションごとに「収益率」と「そのシチュエーションが発生する確率」を掛けた値を計算し、それを合計すれば期待収益率の数値を導出できます。
- Σ {ある事象の発生確率 × ある事象での収益率}
以下の例題を使って、期待収益率の計算式を使ってみましょう!
例題)為替次第で、次のように収益率が変動する株式を購入する
為替相場 | 確率 | 収益率 |
円高 | 0.2 | 10% |
変化なし | 0.6 | 8% |
円安 | 0.2 | 4% |
期待収益率は以下になります。
- 0.2×10%+0.6×8%+0.2×4% = 7.6%
以上で期待収益率の計算は完了です。
計算の結果、株式の期待収益率は7.6%であると判明しました。
期待収益率のデータを使えば、100万円投資したらだいたい7.6万円の利益を得られると予測できます。
以上のように、期待収益率は簡単に計算できます。
ここで紹介した計算方法さえ知っておけば、株式投資や不動産投資で合理的な判断を下せるようになるため、大きな損失を被るリスクを減らせます。
期待収益率の計算(ポートフォリオ)
投資を行うときは、一定の期間において複数の資産を同時に運用するケースがほとんどです。
複数資産の組み合わせは、「ポートフォリオ」と呼ばれています。
この章では、ポートフォリオにおける期待収益率の算出について取り上げます。
期待収益率の導出
求め方の説明
ポートフォリオの期待収益率を計算するときは、まずは各シチュエーションごとのポートフォリオ収益率を導出します。
各シチュエーションにおけるポートフォリオ収益率は、次の計算式で導出できます。
- a証券の収益率 × a証券への資金投入割合 + b証券の収益率 × b証券への資金投入割合
各シチュエーションにおけるポートフォリオ収益率を導出したら、以下の計算式でポートフォリオの期待収益率を計算します。
- Σ {あるシチュエーションでのポートフォリオ収益率 × あるシチュエーションが生じる確率}
ケーススタディ
では、今回も例題を使ってポートフォリオの期待収益率を計算してみましょう。
この例題では、以下に設定したシチュエーションを想定しています。
a証券に30%、b証券に70%のお金を投入する。
為替相場 | 確率 | a証券収益率 | b証券収益率 |
円高 | 0.2 | 10% | 12% |
変化なし | 0.6 | 8% | 6% |
円安 | 0.2 | 4% | 4% |
まず手始めに、上記の条件から各シチュエーションにおけるポートフォリオ収益率を計算します。
- 円高
10%×0.3+12%×0.7 = 11.4%
- 変化なし
8%×0.3+6%×0.7 = 6.6%
- 円安
4%×0.3+4%×0.7 = 4.0%
ポートフォリオ収益率を導出できたので、いよいよポートフォリオの期待収益率を計算します。
- 11.4%×0.2 + 6.6%×0.6 + 4.0%×0.2 = 7.04%
計算の結果、ポートフォリオの期待収益率は7.04%であると判明しました。
簡単な求め方はあるけど注意が必要!
各証券の期待収益率を導出した上でその加重平均を求めれば、もっと簡単に導出できます。
最終的に導出される値が同じとなるので、興味のある方は先ほどの例題を使って、計算して確かめてみてください。
ただしこの求め方を使うと、分散や標準偏差などの「リスク」が誤った値となるので注意が必要です。
詳しくは割愛しますが、リターンのみならずリスクを導出することを踏まえると、先ほどの方式を利用するのがおすすめです。
なおエクセル(Excel)を使えば、より簡単に計算できます。
期待収益率とリスクの関係
期待収益率を理解するには、リスクとの関係も知っておかなくてはいけません。
この章では、リスクの意味や期待収益率との関係性をお伝えします。
ファイナンス理論における「リスク」とは
投資のリスクと聞くと資産の価格が下がることを想像すると思いますが、ファイナンスの理論では「シチュエーションに応じた収益率の変化」をリスクと呼びます。
たとえば景気や為替相場の変化に応じて収益率が大きく変化するほど、リスクが大きいと判断できます。
反対に景気や為替相場の変化によってあまり収益率が変化しないときは、リスクが小さいと言います。
ファイナンスにおいてリスクは、危険性ではなく「不確実性」を表している点に注意しましょう。
リスクは収益率と期待収益率の乖離度合いを表す
今回のメインテーマである期待収益率はリスクと密接な関係があります。
ファイナンスにおけるリスクは「収益率が期待収益率からどの程度離れているか」を表していると言い換えることができます。
そしてリスクを測る尺度には、数学で習う「分散」や「標準偏差」が用いられています。
今回は期待収益率の話なので、リスク(分散や標準偏差)の詳しい求め方や概要は割愛します。
今回はリスクについて、「収益率のばらつき度合いを表し、期待収益率を用いて表せる」ことを最優先に覚えてもらえたらと思います。
CAPMに基づく個別資産の期待収益率の計算
期待収益率の計算では、CAPMというモデルを用いるときもあります。
詳しく説明すると難解な数式や理論が必要となるので、今回は簡単に概要のみをお話しします。
CAPMの簡単な概要と計算式
期待収益率を計算する手法の一つに、CAPMというものがあります。
結論から伝えると、CAPMモデルでは次の式で期待収益率を計算します。
- リスクフリーレート + β × 市場リスクプレミアム
たとえばリスクフリーレートが1%、βが1.5、市場リスクプレミアムが3%の資産は、次のとおり期待収益率を計算できます。
- 1% + 1.5 × 3% = 5.5%
CAPMの簡単な説明は終わりになりますが、聞きなれない用語ばかりでいまいちよくわからなかったかもしれません。
そこで次の項では、CAPMの理論で出てくる用語の意味を簡単にお話しします。
CAPMで用いられる各用語の意味
最後に、CAPMの理論で出てくる各用語の意味をお話しします。
リスクフリーレート
リスクフリーレートとは、リスクがほとんどない(リスクが最小の)資産から取得できる利回りを意味します。
日本においては、国債の利回りが用いられるのが一般的です。
ベータ(β)
ベータ(β)とは、各資産が市場のリスク(為替の変化など)からどのくらい影響されるかを表す指標です。
言い換えると、市場が1%変化した場合に、投資対象の資産のリターンが何%変化するかを表す指標であり、値が大きいほどリスクが大きいと言えます。
個別資産ごとのベータは、日経新聞のサイトなどで公開されているので、それを参考に期待収益率を導出します。
市場リスクプレミアム
市場リスクプレミアムとは、市場全体の期待収益率からリスクフリーレートを差し引いた値です。
市場全体の期待収益率とリスクが最小の資産の収益率の差であるため、「リスクを負った対価として得られる収益のプラス分」と言えます。
期待収益率のまとめ
今回は、株式や不動産の投資に欠かせない「期待収益率」という概念を取り上げました。
期待収益率の知見があれば、投資やビジネスなど幅広いシーンで、事業や証券が持つ価値を正確に分析できます。
ご自身で判断を下せるようになるため、証券会社に勧められた債券や投資信託などで損失をこうむるリスクも回避できます。
期待収益率の知識を有効活用した結果、投資や事業が軌道に乗り、最終的により多くの資産を子供や孫に承継できる可能性もあります。
上記のとおり期待収益率の知識は非常に有用なので、今後の投資やビジネスで積極的に活用してみてはいかがでしょうか?