中小企業診断士クラゲの経営学・マーケティングラボ

中小企業診断士の資格や新規事業の経験を持つクラゲが、経営学やマーケティングをゆるく分かりやすく伝えます。

ジョブ理論とは?ジョブ理論を分かりやすく要約【徹底解説!ジョブ理論シリーズ:第1回】

ジョブ理論

ビジネスで成功するには、顧客の持つ真のニーズを把握し、そのニーズを満たす商品やサービスを提供する必要があります。

しかしアンケートやインタビューなどで得られる顧客のニーズは、実は真の意味でのニーズではないケースが大半です。

というのも、顧客自身が本当にしたいことや欲しいものを認識していない可能性があるためです。

ジョブ理論は、そんな顧客自身が気づいていない真のニーズを特定できる理論です。

今回の記事では、そんなジョブ理論の基本を分かりやすく要約します。

ジョブ理論を知れば、顧客に受け入れられる新規事業のアイデアの創出や、売り上げを伸ばす既存製品の開発につながるでしょう。

クリステンセン教授が提唱したジョブ理論とは?

ジョブ理論とは、「お客さんはどうしてその商品を買うのか」という観点から、お客さんの抱える潜在的なニーズを見出す理論です。

ジョブ理論は、名門中の名門「ハーバード・ビジネス・スクール」で教員をしていたクレイトン・クリステンセン教授が発表したマーケティングの理論として有名です。

ジョブ理論では、顧客の持つ表面的なニーズ(〜が欲しい、〜をしたい)ではなく、顧客がその商品を利用する理由を基に、「表面的には出ていない真のニーズ」を見出すことに主眼を置いています。

より理解してもらうために、次章からはジョブ理論の特徴を要約します。

ちなみにクレイトン・クリステンセン教授は、経営学の分野では有名な「イノベーションのジレンマ」の理論を提唱したすごい人でもあります。

イノベーションのジレンマも、実際のビジネスにおいて知っておいて損はない理論ですので、良ければご覧になってください。

business-kurage.hatenablog.com

ジョブとは「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」を意味する

これだけでは「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩?なにそれ」ってなると思うので、一つ一つ分かりやすく説明します。

特定の状況とは?

ジョブ理論における特定の状況とは、ある商品やサービスを購入する時点の前後最中の状況を意味します。

ジョブ理論では、商品・サービスを利用する前後最中の状況をストーリーとして考え、取るべき改善策や新規事業のアイデアを考えていきます。

例えばスポーツドリンクを購入する顧客を分析した場合、特定の状況は以下になります。

  • 特定の状況(前):運動して喉が渇いたから、喉の渇きを解消したいと思っている
  • 特定の状況(最中):スポーツドリンクを購入して飲んだものの、甘すぎて飲んだ気にならない
  • 特定の状況(後):次からはもっとさっぱりした味のスポーツドリンクを購入しようと思った

上記の分析結果をストーリー仕立てにして、アイデアや改善策を考えます。

成し遂げたい進歩とは?

ジョブ理論における「成し遂げたい進歩」とは、「やらなければならないこと」や「積極的にやりたいこと」など、お客さんが達成したい何らかの目標を意味します。

「商品やサービスを利用すること(表面的なニーズ)」ではなく、「なにを達成したいのか?」という視点でお客さんの分析を進める点がジョブ理論の特徴です。

先ほどの例で言えば、「飲み物を買いたい」というニーズではなく、「喉の渇きを解消したい」という願望を基に、分析を進めていかなくてはいけません。

何故なら商品やサービスの観点から分析を進めていくと、「根本的にお客さんは何を求めているのか?」という視点が薄れてしまい、的外れなアイデアとなってしまうからです。

たとえば「飲み物を買いたい」というニーズに基づいて商品改良を進めた場合、美味しさを追求するあまり、本来顧客が求めている「さっぱりした飲み物」からはかけ離れた甘ったるい飲み物になります。

一方で「喉の渇きを解消したい」という願望に基づけば、喉をさっぱりさせることができる薄味でスッキリした味の飲料水を作れます。

的外れな商品やサービスを提供しないためにも、顧客が成し遂げたい進歩に着目する必要があるのです。

結局ジョブって何?

要するにジョブとは、お客さん一人一人が商品を購入することで得たい(解決したい)事柄を意味します。

「飲料水を購入する」という表面的には同じ行動であっても、お客さん一人一人が持つジョブは全く異なったりもします。

疲れているから甘ったるい飲み物が飲みたい人は「甘い飲み物を飲みたい」というジョブを持っているかもしれません。一方で、前述したように「さっぱりした飲み物で喉を潤したい」というジョブを持っている人もいます。 

従来型のマーケティングでは、「お客さんはどんな商品を欲しいのか?」という表面的なニーズ視点で分析を進めます。

一方でジョブ理論では、顧客一人一人の購買行動とその前後をくわしく観察し、「顧客は商品やサービスの利用を通じて、何を成し遂げたい(得たい)のか?」というジョブ視点で分析を進めます。

実際の行動を観察するからこそ、お客さんの持つ潜在的なニーズ(解決したいジョブ)を見極めた上で、そのニーズを満たす的確なマーケティング活動を行えます。

ジョブ理論の事例〜なぜ顧客はミルクシェイクを買うのか?〜

ジョブ理論の理解を深めるために、クリステンセン教授が著書で示している「ミルクシェイクの事例」を見てみましょう。

顧客の要望を基に商品の味や質を変えても売り上げは増えなかった

あるファーストフード店は、「どうしたらミルクシェイクがもっと売れるのか?」という課題を抱えていました。

答えを探すためにこのお店は、お客さんにアンケートを取り、商品の値段や味、量などの希望を聞きました。

ファーストフード店は、そのフィードバックを基に商品を改良しました。

従来型のマーケティングの考え方的には、顧客のニーズ通りの商品を販売しているので、当然うまくいくはずです。

しかし数ヶ月後、期待とは裏腹に売り上げは増えませんでした。

顧客の「ニーズ」ではなく「ジョブ」に着目

そこでこの店舗は、ジョブ理論による課題解決に着手しました。

具体的には、「なぜミルクシェイクを購入するのか?」という視点で顧客を観察し、ミルクシェイクの購入で、顧客は何を得たい(成し遂げたい)のかを調査したのです。

「ミルクシェイクが頻繁に購入される午前9時前」に来店する顧客を調査した結果、ミルクシェイクを購入する理由(解決したいジョブ)が判明しました。

その理由とは、「仕事先までの長時間の運転で退屈をしのぎたい」でした。

どろっとしていて飲むのに時間がかかるミルクシェイクは、長時間ドライブの退屈しのぎとして最適だったのです。

意外なことに、味の美味しさや値段の安さが理由でミルクシェイクを購入していた訳ではなかったのです。

味や値段が良いから購入していた訳でないから、味や値段を変えても売り上げが増えなかったのです。

また驚くべきは、別の時間帯にお店を訪れた顧客層は、別の理由(ジョブ)でミルクシェイクを購入していた点です。

休日の午後に訪れるお客さんの多くは、「子供にミルクシェイクを買ってあげて、優しい父親の気分に浸りたい」というジョブを解決するために、ミルクシェイクを購入していたのです。

同じ商品でも、購入する顧客層によって、購入する理由(解決したいジョブ)は異なります。

そのためジョブ理論では、それぞれの顧客層に応じて適切な解決策を考えるのが重要となります。

ジョブ理論の最終目標は「顧客の抱えるジョブの解決」

ここまでお伝えした通りジョブ理論は、お客さん一人一人が抱えている課題(成し遂げたい進歩)を分析する方法です。

しかし分析しただけでは、ビジネスにおいては何の役に立ちません。

分析によって気づいた顧客の抱えている「成し遂げたい進歩」を実現する方法を提供し、満たしたいと思っていた願望を成就させることで初めて、ジョブ理論の効果を期待できます。

最初の章で示した例で言えば、「喉の渇きを解消したい」という成し遂げたい進歩を実現させるために、さっぱりした飲み物を提供する必要があります。

客側からすると、自身が抱えていた課題を解決してもらえるため、その企業の商品を積極的に「雇う(利用する)」ようになります。

お客さんの抱えるジョブを解決して初めて、売り上げや利益の向上につながるのです。

顧客は必ずしも機能的な目的でのみ、商品やサービスを利用する訳ではない

ジョブ理論を活用する際に注意すべきなのが、必ずしも商品やサービスが本来持つ機能を求めて商品を購入する顧客ばかりではないということです。

分かりやすくするために、時計を例にして説明します。

本来時計は、「時間を表示する」という機能を提供してくれます。

しかし時計を購入する人は、「時間を表示する機能が欲しいから」という目的だけで購入するでしょうか?

「デザイン性が良くて、身につけると贅沢な気分を味わえる」とか「高級ブランドだから、身につけると他者から羨ましく思われるから」といった理由で購入する人もいます。

このように商品やサービスは、「贅沢を味わいたい」といった感情的な理由や、「他人から羨ましく思われたい」といった社会的な理由でも利用されます。

機能的な側面にのみ着目していては、思い浮かぶアイデアや改善策に限界があります。

しかし感情や社会的な側面に目を向ければ、これまでは気づけなかった側面に気づくことができ、新たなアイデアを見出せます。

例えばゴージャスで贅沢な気分になれる時計を製造したり、ブランド力を高めることで、従来とは異なる顧客層を獲得できる可能性があります。

ジョブ理論を使ってビジネスのアイデアを考える際は、顧客の感情的側面や社会的側面にも目を向けるのがオススメです。 

ジョブ理論を使うと何ができるの?

結局のところジョブ理論で何ができるの?ってところが一番気になる部分だと思います。

そこでこの章では、ジョブ理論で出来ることを2つに要約してお伝えします。

ジョブ理論の効果①:既存の製品・サービスを、より顧客に受け入れられるものにできる

ジョブ理論を活用すれば、既存の製品やサービスをより顧客のニーズに沿ったものに改良できます。

たとえば自社製品を利用している顧客を対象に、ジョブ理論を活用してみるとしましょう。

既存顧客が直面する特定の状況をアンケートや行動観察により分析すると、自社のサービスや製品にどんな不満を持っているか見当をつけることができます。

その分析に基づいて、顧客が成し遂げたい進歩を解決できるように商品やサービスを改良すれば、より顧客からの支持を集める事ができるでしょう。

既存製品やサービスにジョブ理論を用いる際は、「顧客がどんなジョブを持っているのか」、「顧客の持つジョブを解決する上で、自社製品やサービスには何が足りないのか」という観点を持つのが重要です。

ジョブ理論の効果②:既存産業からマネタイズできる新規事業のアイデアを見つける事ができる

ジョブ理論は、十分成熟していて新規参入する余地がなさそうに見える産業の中で、ニッチなサービスや商品を開発する際に役立ちます。

たとえば美容室や飲食店などは十分成熟している業界なので、今更差別化されたサービスを思いつくのは不可能だと思われるかもしれません。(言うまでもなく、既存他社と同じサービスを始めるのでは、上手くいく可能性は低いでしょう。)

しかし成熟している業界であっても、現状のサービスや商品では自身の抱えるジョブを解決できないお客さんは存在します。

そのような顧客の持つジョブを的確に解決するサービスや商品を提供すれば、成熟した産業であっても十分新規事業として成立します。

たとえば「QBハウス」さんという会社は、「仕事の合間で短時間かつ低価格で髪を切りたい」というジョブを持つ顧客が多いことに目をつけました。

そして同社は、顧客の持つジョブを解決するために、ヘアカットのみを短時間で行えるサービスに特化し、見事大成功を収めています。

ジョブ理論のまとめ

今回の記事では、ジョブ理論の特徴や出来ることを分かりやすく要約してみました。

真の顧客視点に立てるジョブ理論の考え方は、事業を進める上でとても役立ちます。

新規事業のアイデアを考えるのは簡単ではありません。

ですがジョブ理論を使えば、顧客に求められる商品やサービスを的確に見いだせるため、より新規事業がヒットする可能性を高められます。

新規事業のアイデアを考える際や既存製品やサービスを改良する際には、ぜひジョブ理論を活用してみてください! 

【徹底解説!ジョブ理論シリーズ】の第2回では、ジョブ理論の実践方法(フレームワーク)について解説します。

ジョブ理論を実務で役立てる方法をわかりやすく解説するので、是非次の記事も見てくれると嬉しいです!

business-kurage.hatenablog.com