全4回にわたって「CVP分析をわかりやすく解説シリーズ」の記事を書いていますが、第2回となる今回は、「限界利益」について解説します。
損益分岐点分析(CVP分析)を行う上で、とても重要な概念となるのが「限界利益」です。
営業利益や粗利益は聞いたことがあっても、限界利益については知らない方は意外と多いと思います。
限界利益について理解できれば、より正確に黒字化に向けた利益計画を立てやすくなります。
今回の記事では、限界利益の意味や求め方、貢献利益との違い・関連性についてわかりやすく解説しようと思います。
限界利益とは?限界利益の求め方
限界利益とは、売上高から変動費を差し引いた利益を指します。
- 限界利益=売上高 − 変動費
たとえば売上高が100万円で変動費が40万円の場合は、変動費は100万円−40万円=60万円となります。
前の回でもお伝えしたように、変動費は売上高や販売数の増加に伴って増加する費用です。
つまり限界利益は、商品を1つ以上販売した際に純粋に増加する利益を意味しています。
なお変動費と固定費についてよく分からないという方は、前回の記事(下記リンク先)をご覧になると良いかもしれません。
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限界利益率は高い方が良い!その理由とは
損益分岐点分析(CVP分析)では、限界利益の割合(限界利益率)が重要となります。
そこでこの項では、限界利益率について簡単にご説明します。
そもそも限界利益率とは?
限界利益率とは、売上高に占める限界利益の割合です。
要するに限界利益率は、売上高のうち限界利益はどのくらいあるのかを表します。
求め方を式で表すと、限界利益率は以下のようになります。
- 限界利益率(%) = (限界利益 ÷ 売上高)×100
たとえば売上高が100万円で限界利益が40万円の場合は、限界利益率は(40万円÷100万円)×100=40%となります。
限界利益率が高い方が良い理由
売上高が同じである状況では、限界利益率は高いほど良いと判断できます。
理解を深めるために、売上高が同じであるものの限界利益率が異なる2社を例にします。
例)A社:売上高100万円、限界利益率30%
B社:売上高100万円、限界利益率10%
限界利益は売上高に限界利益率をかけることで求められるので、両社の限界利益は以下のようになります。
- A社の限界利益=100万円×30%=30万円
- B社の限界利益=100万円×10%=10万円
このように売上高が同じであっても、限界利益率が高いほど、より多くの利益(限界利益)を手元に残せます。
また限界利益率が高いほど、売上高が増加した際の利益の伸び幅も大きくなります。
先ほどお伝えしたA社とB社、両方とも売上高が100万円さらに増加したとしましょう。
A社は売上高200万円のため、限界利益率30%をかけた60万円が限界利益になります。
売上高が100万円の時からの利益の伸び幅を考えると、(60万円-30万円)=30万円限界利益が増えたと言えます。
一方でB社は、限界利益率10%をかけた20万円が限界利益となります。
売上高が100万円の時からの利益の伸び幅を考えると、(20万円-10万円)=10万円だけ限界利益が増えたと言えます。
A社は売上高の増加に伴い30万円も限界利益が増えた一方で、B社は同額だけ売上高が増えたにもかかわらず限界利益は10万円しか増えていません。
このように限界利益率が高いほど、売上高が増加するとより大きな利益を手元に残せるのです。
以上2つの理由から、限界利益率は高い方が良いと言えるのです。
限界利益率を高める(限界利益を増やす)には?
最初にお伝えしたように、限界利益は売上高から変動費を差し引いて求めます。
変動費が多ければ多いほど、手元に残る限界利益は少なくなります(限界利益率は低くなる)。
つまり限界利益率を高めたいのであれば、変動費を削減すれば良いのです。
たとえば需要に応じて適切な量だけ原材料を仕入れるようにすれば、変動費を削減できます。
ただし変動費削減に注力しすぎるあまり、需要に応じることができなくなる(在庫不足)になっては元も子もありません。
固定費の削減についても同様ですが、あくまで「無駄をなくす」という観点から変動費を削減するのが大事です。
限界利益と貢献利益の違い
限界利益と関連する利益に、貢献利益という利益があります。
貢献利益とは、売上高から変動費と個別固定費を差し引いた利益です。
言い換えると貢献利益は、限界利益から個別固定費を差し引いた金額になります。
なお個別固定費とは、固定費のうち各事業部に直接関連するものを意味します。
具体的には、事業部に属する従業員の給与などが個別固定費に含まれます。
そのため貢献利益は、各事業部が全社的な売上高にどの程度貢献しているかを分析する際に用いられます。
たとえばA社には、「a事業」と「b事業」があるとし、各事業部の売上や費用は以下の通りだとします。
- a事業
売上高 = 1,000万円
変動費 = 600万円
限界利益 = 400万円
限界利益率 = 40%
個別固定費 = 50万円
貢献利益 = 350万円
- b事業
売上高 = 1,000万円
変動費 = 200万円
限界利益 = 800万円
限界利益率 = 80%
個別固定費 = 600万円
貢献利益 = 200万円
以上の分析から、a事業部は350万円、b事業部は200万円だけ会社に貢献していると分析できます。
ただし貢献利益だけを見て、どの事業部を重視すべきか決めるのはおすすめできません。
なぜなら限界利益率で見ればb事業の方が高いですが、貢献利益の観点で見るとa事業の方が多いからです。
限界利益率と貢献利益のどちらを重視すべきかに、明確な答えがあるわけではありません。
ですが自分の考え方を述べるならば、将来的な稼ぎ頭を育てたいなら「限界利益率」、業績が悪化した際に残すべき事業部を決めるなら「貢献利益」を重視するのがおすすめです。
先ほどお伝えしたように、限界利益率が高い方が売上が増えた際の利益の増え幅が大きくなります。
よって将来的な稼ぎ頭を育てたいのであれば、利益の増え幅が大きくなる「限界利益率の高い事業」に重きを置くのが良いでしょう。
一方で貢献利益は、その時点でその事業部がどの程度会社に貢献しているかを表します。
業績が悪化した際には、より会社への貢献度が多い事業部を残し、貢献度が低い(貢献利益が少ない)事業部を切った方が、その場を凌ぐ上では合理的だと言えます。
限界利益に関するまとめ
今回の記事では、限界利益の意味や求め方、貢献利益との違いについて説明しました。
限界利益を見ることで、事業や会社の稼ぐ力や将来的な潜在性を見極めやすくなります。
次回の記事では、いよいよCVP分析の要である「損益分岐点・損益分岐点売上高」について解説します。
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第一回と今回の内容を理解できていれば、比較的スムーズに理解できるかと思います。
第3回の記事もご覧になってくれると嬉しいです!