企業にとって、新規事業の立ち上げや新しく機械設備を購入する行為は大きな投資です。
「投資を行うべきか行わないべきか」とか「複数の投資案のうちどれが最も優れているか」を決定するのはとても難しいです。
そんな難しい投資の意思決定に役立つ手法に、「正味現在価値法(NPV法)」と呼ばれるものがあります。
今回の記事では、正味現在価値法の意味やNPVの計算方法をわかりやすくお伝えしようと思います。
正味現在価値法(NPV法)とは?どんな場面で役立つのか
正味現在価値法とは、事業への投資で得られる「キャッシュフロー(CF)の現在価値」から「初期投資の金額」を差し引いた金額をベースに、投資の意思決定を行う手法です。
「CFの現在価値(Present Value)」から「初期投資額」を差し引いてNet(正味)の現在価値(PV)を求めることから、NPV(Net Present Value)法とも呼ばれます。
NPV法では、NPVの値がプラスである場合に投資を実行するという基準を採用しています。逆にNPVがマイナスであれば、その投資は実施しません。
つまり初期投資の金額よりも投資で得られる金額の方が大きければ、その投資案を実行しても良いとするのがNPV法なのです。
なおNPV法を活用すれば、複数の投資案の中から最も優れている(CFを多く得られる)投資案を選ぶこともできます。
具体的にNPV法では、NPVの値が最も大きい投資案を採用します。
このように正味現在価値法は、ビジネスにおける様々な意思決定の場面で役立ちます。
正味現在価値法(NPV法)の計算式と計算方法
正味現在価値法によりNPVを計算するのは、一見すると難しく感じるかもしれません。
しかし実は、多少の計算テクニックや知識は必要なものの計算過程はとても単純です。
結論から言うと、今後得られる正味CFを計算し、それを現在価値に割り引き、最後に設備投資に費やした金額を差し引くだけです。
つまりNPV法自体は、下記の計算式で簡単に表せます。
- NPV = {1期目のCF ÷ (1+割引率) } + {2期目のCF ÷ (1 + 割引率)^2}+・・・− 設備投資額
もっと簡単に表すと
- NPV = PVの現在価値合計 − 設備投資額
この計算式だけで理解できれば良いですが、難しいと思う方もいると思います。
そこでここでは、正味現在価値法(NPV法)の計算過程について順を追ってご説明します。
Step1:毎期の正味キャッシュフローを計算する
まず初めに、投資を行って以降得られる正味キャッシュフロー(CF)を数年分計算します。
何年分計算するかは、その状況に応じて決定します。
たとえば設備投資であれば、その設備の耐用年数分だけの正味CFを算出するのが一般的です。
正味CFを簡単に言うと「手元に純粋に残るキャッシュ」であり、下記の計算式で求められます。
- 正味CF = (CIF – COF – 減価償却費) × (1 – 税率) + 減価償却費 ± 運転資本増減額
CIF(キャッシュインフロー)は現金で得た収益、COF(キャッシュアウトフロー)は材料費や人件費といった現金の支出であると言う認識で基本的に問題ありません。
「この計算式じゃ難しくて訳がわからない!」と言う方は、下記の計算式を使っても問題ないと思います。
- 正味CF= 税引き後営業利益 + 減価償却費 ± 運転資本増減額
ちなみに上記の計算式から、期間内に行った設備投資額をさらに差し引いた金額(FCF)を使用する場合もあります。
Step2:割引率を設定する
正味キャッシュフローを算出したら、次に割引率を設定します。
割引率については、WACC(加重平均資本コスト)を用いたり、CF予測の不確実度を考慮し自分で設定するのも可能です。
割引率の設定方法については、下記の記事で説明しているのでもしよければご覧になってください!
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Step3:毎期の正味CFを現在価値に割り引く(PVの算出)
割引率を設定したら、Step1で算出した正味CFを現在価値に割り引きます。
正味CFを現在価値に割り引く際には、下記の計算式を用います。
- 正味CFの現在価値 = 将来得られる正味CF ÷ (1 + 割引率) ^ n
※「^」の記号は、◯乗を意味します。
なおnの部分には、現在から数えたCFを得られる年度を使います。
たとえば5年後の正味CFを現在価値に割り引く場合はnに5を入れて、(1 + 割引率)を5乗します。
この計算式を使って、毎期のキャッシュフローを現在価値に割り引きましょう。
Step4:正味CFの現在価値から設備投資額を差し引く(NPVの算出)
最後に、現在価値に割り引いたキャッシュフローの合計から、設備投資額を差し引いてNPVを算出します。
NPV法による計算は以上で完了となります。
正味現在価値法(NPV法)を使って投資の意思決定を行う具体例
正味現在価値法の計算式・計算方法について理解を深めるために、具体的な計算例でNPV法の使い方をマスターしましょう!
例)X社は以下3つの設備投資案を持っている(単位は万円)。
投資案 | 初期投資額(現在) | 1年目CF | 2年目CF | 3年目CF |
A案 | -4,000 | 1,500 | 1,500 | 2,000 |
B案 | -3,000 | 1,000 | 1,500 | 1,500 |
C案 | -5,000 | 1,200 | 1,500 | 3,500 |
X社は3つある投資案のうち、どの投資案を採用すべきか?なお割引率は各投資案とも10%とする。
今回の例ではすでに割引率とCFが示されているため、Step3(CFを現在価値に割り引く)から始めます。
各投資案について、3年分のCFを現在価値に割り引くと以下のようになります(小数点以下は切り捨て)。
投資案 | 初期投資額 | 1年目CF(現在価値) | 2年目CF(現在価値) | 3年目CF(現在価値) |
A案 | -4,000 | 1,363 | 1,239 | 1,502 |
B案 | -3,000 | 909 | 1,239 | 1,126 |
C案 | -5,000 | 1,090 | 1,239 | 2,629 |
では次に3つの投資案それぞれについて、CFの合計から初期投資額を差し引いてNPVを求めてみましょう。
- A案NPV=1,363+1,239+1,502-4,000 = 104万円
- B案NPV=909+1,239+1,126-3,000 = 274万円
- C案NPV=1,090+1,239+2,629-5,000 = -42万円
3つの投資案それぞれのNPVを計算したので、最後にどの投資案を採用するかを決めます。
まずNPVがマイナスとなっているC案は真っ先に不採用となります。
そして残ったA案とB案を比較すると、A案のNPVが104万円である一方で、B案のNPVは274万円となりました。
よって今回の例では、NPVが最も大きいB案を採択することになります。
見てもらえるとわかりますが、3年間のCFを単純に合計した金額から初期投資額を差し引いた金額が最も大きいのはC案です。
しかし現在価値に直すと、何と一見するとパッとしないB案がこの中でも最も優れている投資案だという結論に至ります。
むしろC案はNPVがマイナスとなるため、この中で最も良くない(採用すべきではない)投資案となりました。
なぜこうなるかを簡単にお伝えすると、いつキャッシュフローを得るかによって現時点での価値が変わってくるためです。
ファイナンスの理論的には、キャッシュフローを得られるタイミングに応じてCFの価値を適切に修正したものを用いる方が、より正確に投資の意思決定を行えます。
より精度の高い意思決定を行える点は、NPV法の大きなメリットです。
正味現在価値法(NPV法)のまとめ
今回の記事では、正味現在価値法の計算式や具体的な計算例をお伝えしました。
NPV法の計算式は一見すると難解ですが、一度慣れれば比較的簡単に使えるようになります。
ビジネスで行う投資の意思決定に悩んだら、ぜひ正味現在価値法を使用してみてください!