消費者のニーズが複雑化していたり、人口の減少が進行している影響で、一つの事業で長期的に利益を得続けることは難しくなっています。
そこで多くの企業では、新規事業を立ち上げることで業績の維持・向上に努めています。
新規事業が成功すれば、既存事業に加えてもう一つ大きな収益源を確立できます。
しかし新規事業を立ち上げる上で課題となるのが、利益につながるアイデアの創出です。
はじめて新規事業を立ち上げるとなると、どのようにしてアイデアを見つければ良いかわからない方が多いです。
そこで今回の記事では、新規事業のアイデアを見つける方法やアイデア創出に役立つフレームワークなどを、実際に新規事業の立ち上げを経験した中小企業診断士である筆者が詳しく解説します!
また、新規事業を成功させるコツや実際の成功事例についても解説するので、これから新規事業のアイデアを考える方はぜひ参考にしてください。
新規事業のアイデアを見つける方法
新規事業のアイデアを見つける方法は、大きく以下に挙げる4つに分けられます。
顧客(消費者)の悩みや不満、願望に着目する
新規事業のアイデアを見つける上でもっともオススメなのが、顧客や消費者の悩みや不満、願望などの感情に着目する方法です。
消費者は商品やサービスを使っていく上で、商品に対して何かしらの不満や願望を持ちます。
抱えている感情をピンポイントで満たすアイデアを形にできれば、顧客から受け入れられる(利益になる)新規事業となるでしょう。
特に、すでに既存事業で込み入った話ができる顧客を抱えているならば話は早いです。
そうした既存顧客から、自社や他社製品に対する不満や悩みを聞いて、それを解決できるようなアイデアを考えてみましょう。
そのアイデアが顧客の不満や願望を解消できるものであれば、新規事業として十分利益を生み出せる可能性が高いです。
業界内の上流・下流工程の課題に着目する
自社を取り巻く業界内の上流工程・下流工程で抱えている課題に着目するのも、新規事業のアイデアを見つける上で有効な方法の一つです。
例えばスナック菓子一つとってみても、お菓子を製造する会社(製造業)や製造した商品を運ぶ会社(運送業)、メーカーから仕入れた商品を小売に販売する会社(卸売業)など、あらゆる業種の会社が携わっています。
自社の事業に携わる上流・下流工程の企業に着目すると、それぞれの会社が特有の課題を抱えている場合があります。
例えば小売業からすると、卸売業から仕入れることで利ざやが小さくなっていることが課題となっているかもしれません。
こうした課題を解決できるようなアイデアを生み出せれば、十分新規事業として成り立つでしょう。
他の業界のアイデアを新規事業に応用する(組み合わせる)
ここまでは顧客や関係する会社のニーズに着目した方法を紹介しましたが、もっと簡単に新規事業のアイデアを見つける方法もあります。
それは、他の業界のアイデアを自社の新規事業に応用したり、複数のアイデアを組み合わせるという方法です。
簡単にいうと、他の業界で成功しているアイデアをある程度真似するという方法です。
一見すると聞こえが悪いですが、意外と成功しているビジネスの大半は色々なビジネスモデルを組み合わせたものであったりします。最近流行っているサブスクリプションも、あらゆる業種で活用されていますが、あれも見方によっては模倣に他なりません。
そもそも、すでに成功している事業を参考にした方が、一からアイデアを考えるよりも新規事業が成功する可能性ははるかに高いです。
ただしあまりにも類似していると二番煎じとなり、ほとんど利益を得られなかったり批判される可能性もあります。
そのため、自社の既存事業や他の業種と組み合わせるなどして、オリジナリティのある新規事業のアイデアを生み出すことが重要です。
自社の強み・得意分野に着目する
自社の強みを最大限活かせる新規事業のアイデアを生み出すのも一つの選択肢です。
例えば技術力を強みとするならば、技術力を最大限に活かせるアイデアを考えるのがこの方法です。
この方法のメリットは、他の企業に模倣されにくい新規事業のアイデアを生み出せる点です。
他の企業に模倣されにくいアイデアを形にできれば、長期的にその分野で確固たる地位を確立することが可能です。
ただしニーズがない商品やサービスを売っても意味がないので、強みのみならず顧客のニーズにも着目することが極めて重要です。
新規事業のアイデア創出に役立つフレームワーク
新規事業を見つける方法をお伝えしたものの、初めて新規事業を立ち上げる方にとっては、机上の空論に思えたり、実際に行うとなると難しく感じるかもしれません。
そこでこの章では、新規事業のアイデア創出に役立つフレームワークを3つご紹介します。
ここで紹介するフレームワークを活用すれば、魅力的な新規事業のアイデアを比較的簡単に考えることができるのでぜひ参考にしてください。
オズボーンのチェックリスト
オズボーンのチェックリストとは、ブレインストーミングを考案したオズボーンが発案したアイデア創出のフレームワークです。
具体的には、「転用」、「応用」、「変更」、「拡大」、「縮小」、「代用」、「置換」、「逆転」、「結合」という9つの観点から、新規事業のアイデアを考えます。
下記の表に項目ごとに、アイデアの考え方の一例を示したので新規事業を始める際に参考にしてください。
項目 | 考え方の例 |
転用 | 他に使い道はないか? 例)既存事業に使っている技術を他の製品開発に転用する |
応用 | 似た商品やビジネスモデルはないか? 例)すでに成功しているビジネスモデルを自社の新規事業で応用する |
変更 | 色や形、用途を変えられないか? 例)色や形を現地の人好みに変えて海外進出 |
拡大 | 大きくできないか? 例)大きいサイズの衣服を販売する |
縮小 | 小さくできないか? 例)機能を絞った廉価版の商品を販売する |
代用 | 他の原材料や物で代用できないか? 例)顧客のニーズを既存の商品とは異なる商品で満たす |
置換 | 順番や配置を変えることはできないか? 例)後払い→先払いに変更する |
逆転 | 順番や位置、立場を逆にできないか? 例)企業が直接就活生をスカウトするサービスを作る |
結合 | 組み合わせることはできないか? 例)商品の製造から販売まで一貫して行う |
エーベルの3次元枠組み
エーベルの3次元枠組みとは、「どのような顧客」に「どんな機能」を「どのような技術・方法」で提供するか?という観点から新規事業のアイデアを考えるフレームワークです。
エーベルの3次元枠組みを利用するメリットは、ビジネスで特に重要となる3つの要素に絞って新規事業のアイデアを考えるため、とても簡単に活用できる点です。
一見複雑に見えるビジネスモデルでも、あらゆる余計な部分を削ぎ落とすと「商品を購入する顧客」と「商品の持つ機能」、「商品を作ったり提供する際に用いる技術や方法」の3つに集約できます。
重要な3つの要素にのみ絞ることで、無駄がなく洗練された新規事業のアイデアを発案できます。
ジョブ理論
ジョブ理論とは、消費者が商品やサービスを利用する理由に着目し、顧客の持つ潜在的なニーズを見つけ出すフレームワークです。
具体的には、「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」を見つけ出すことで、ニーズの高い新規事業のアイデアを発案します。
実は顧客が口に出したニーズを満たしても、商品やサービスが思うように売れないケースは多々あります。
というのも、顧客自身が自分自身の本当のニーズに気づいていない可能性があるためです。
一方でジョブ理論では、顧客がある商品やサービスを利用する前後最中を観察しつつ、その過程で抱いた感情を詳細に調査します。
そうすることで、自分自身が気づいていない真のニーズを見つけ出すことができるため、結果的に顧客から強く支持される新規事業のアイデアを発想しやすくなります。
顧客の行動や感想を詳細に調査する必要があるため手間はかかるものの、顧客のニーズに沿ったアイデアを発案する上では極めて有効なフレームワークです。
ビジネスで成功するには、顧客の持つ真のニーズを把握し、そのニーズを満たす商品やサービスを提供する必要があります。しかしアンケートやインタビューなどで得られる顧客のニーズは、実は真の意味でのニーズではないケースが大半です。というのも、[…]
新規事業のアイデアを成功させる上で最低限意識すべきポイント
新規事業のアイデアを見つける方法や、創出する上で役立つフレームワークを紹介してきましたが、実はこれだけでは不十分です。
というのも、新規事業を成功させるには、ただ単にアイデアが優れているだけでは不十分だからです。
この章では、新規事業のアイデアを成功させる上で意識すべきポイントを3つご紹介します。
十分なニーズ(収益性)が見込めるアイデアを考える
自社の強みに着目したり、他業種のアイデアを活用する際に注意すべきなのが、そのアイデアに十分なニーズがあるかどうかという点です。
どれほど自社の強みを最大限発揮できて他社が真似できないビジネスでも、消費者からのニーズがなければ新規事業をスケールさせるのは困難です。
また、他の業種で成功したビジネスアイデアでも、自社が参入する業界で通用するとは限りません。
消費者にアンケートをとったり競合他社を分析するなどして、必ず十分なニーズ(収益性)があるかどうか確認した上で、新規事業を立ち上げましょう。
熱意を持って取り組めるアイデアを採用する
どれほど優れたアイデアでも、形にしてすぐに成功するとは限りません。
むしろ成功するまでに、何回も浮き沈みを経験し、やっとの事で成長を遂げるケースが大半です。
ただ稼げそうという理由で興味や熱意がない新規事業を始めてしまうと、成功するまでに稼げない時期が続くことで、途中でモチベーションがなくなって辞めてしまう可能性があります。
辛い時期を耐え抜くためにも、収益性のみならず熱意を持てるアイデアを採用した上で新規事業を始めましょう。
たくさんのアイデアを小さいスケールで検証し続ける
巷で言われている通り、新規事業のほとんどは失敗に終わります。
日経ビジネスのとある記事を参考にしたところ、ベンチャー企業の5年後生存率はわずか15%しかないとのことです。
どれほど緻密な経営戦略やマーケティング施策を練っても、そのほとんどは市場から姿を消してしまいます。
ほとんどの新規事業が失敗に終わることを踏まえると、一つのアイデアにお金や時間を懸ける戦略は好ましくありません。
仮に失敗してしまうと、何もかも無くなって再起するのが困難となるためです。
そこでオススメなのが、小さなスケールで新規事業のアイデアを検証する方法です。
具体的には、「ちょっとだけお金や時間をかけて検証し、ダメだったら次のアイデアを検証」というサイクルを回し続ける方法です。
一回あたりに費やす時間や資金が少なく済むため、何回も新規事業にチャレンジできます。
先ほどお伝えした通り、1つのアイデアが成功する可能性は極めて小さいです。
ならば1回のチャレンジにすべてを懸けるのではなく、小さなチャレンジを積み重ねた方が成功できる可能性は高いと言えるでしょう。
これから新規事業を立ち上げる方は、最初からすべての資金や時間を一つのビジネスに投入するのではなく、まずは小さなスケールで始めましょう。
そして何回も失敗を繰り返し、成功しそうなビジネスが見つかった段階で本格的に資金を投入すれば、時間や資金を無駄にせずに済みます。
実際にあった新規事業のアイデア例
最後に、実際に存在する新規事業のアイデアの事例を3つご紹介します。
新規事業のアイデアに悩んでいる方は、ぜひ成功事例を参考にしてみてください。
LINE証券〜利用者の多いLINEで手軽な資産運用を実現した事例〜
LINE証券は、メッセージアプリを手がけるLINEと野村ホールディングスが合弁で立ち上げた新規事業です。
従来の証券業界は、口座開設や資金の入金が面倒と感じる投資未経験者を取り込めないという課題を抱えていました。
しかしLINE証券は、多くの人が使っているLINEのアプリから手軽に口座開設や資金の入金ができる仕組みとなっています。
証券業界の抱える課題を解決しつつ、従来投資とは程遠かった若者に市場を拡大できている点で、画期的な新規事業のアイデアと言えます。
talkappi〜AI開発の強みを需要の大きいインバウンド市場に活かした事例〜
talkappiは、多言語でのコミュニケーションツールを手がけるIT企業アクティバリューズが開発したサービスです。
このサービスは、AI により多言語での問合せへの自動応答ができるチャットボットとなっており、WebブラウザーはもちろんLINEやFacebook messenger、WeChatなどのチャットアプリでも活用できます。
あらゆる言語やチャットツールに対応しているため、観光しに日本に来る外国人の問い合わせに対応できるとあり、ホテルニューオータニをはじめとして多くの有名ホテル・旅館で導入されています。
自社の強みである「AIに関する技術力」を活かして、近年需要が高まっているインバウンド市場に向けたサービスを開発している点で、あらゆる新規事業の参考になるアイデアの事例です。
助太刀〜建設業界の課題解決に役立つサービス事例〜
最後にご紹介する助太刀は、仕事を任せたい建設現場と仕事を行いたい職人をつなげるマッチングサービスです。
スマートフォンで職種や居住地を入力するだけで、簡単に現場の募集情報を探せるとあり近年大きな人気を集めています。
また、毎日の日当(報酬)を全国2万4千台あるセブンイレブン店舗のATMで受け取れる「即日受取サービス」の機能が導入されている点も大きな特徴です。
従来の建設業界では、職人に対する報酬の支払いは1ヶ月以上遅れるケースがほとんどでした。
ですがこの機能が導入されたことで、職人はすぐに報酬を受け取れるようになりました。
一方で建設業者側は、経理作業の軽減や人手不足の解消といった効果を得られるようになっています。
建設業界を取り巻く課題を解決できている点で、助太刀は社会的にも意義のある新規事業のアイデアです。
参考:国内の新ビジネス事例集/新規事業の動向(2021年) -JNEWS-
新規事業のアイデアに関するまとめ
今回の記事では、新規事業のアイデアを見つける方法や、役立つフレームワーク、実際のアイデア事例などを詳しく解説しました。
新規事業のアイデアと聞くと難しく思えますが、コツを掴んだりフレームワークを活用すれば、割と本格的なアイデアを発案することは十分可能です。
ただし、どれほど優れたアイデアを思いついても、必ずしも新規事業が成功するとは限りません。
そのため、まずは小さなスケールからアイデアを形にし、ある程度稼げそうな目処が立った段階で本格的に新規事業をスケールさせるのがオススメです。
なお新規事業を立ち上げる際には、実際に成功している事例からアイデアのヒントを得るのも一つの戦略として良いでしょう。
新しく何かのビジネスを始める行為を、一般的には「新規事業の立ち上げ」と言います。新規事業の立ち上げは一見するとカッコ良く見えますが、立ち上がった新規事業の8〜9割は失敗してしまうと言われています。今現在成功している起業家の方でも、実[…]