「新しい設備を購入すべきか?」
「新規事業を始めるべきか?」
ビジネスで成功するには、上記のような場面で正しい意思決定を行わなくてはいけません。意思決定に失敗すると、莫大な損失を被ったり時間を無駄にしてしまいます。
今回はこうしたビジネス上の意思決定に役立つ「回収期間法」について、計算方法やメリット・デメリットを解説します。
意思決定の手法の多くは専門的な知識を要し難しいですが、回収期間法は専門的な知識を必要としないため簡単に活用できます。
スモールビジネスを営んでいるものの、会計や財務の知識に不安があるという方はぜひ参考にしてください!
回収期間法とは?回収期間法の意味
回収期間法とは、投資金額を回収する期間を基に事業の投資意思決定を行う手法です。
回収期間法では、投資期間の回収期間を求めて、その期間が会社にとって満足できる場合に投資を行うと判断します。
例えば5年以内に投資金額を回収したいのであれば、「5年以内の回収が見込める場合には投資を行い、5年以上かかる場合には投資を行わない」という風に意思決定を行えます。
なお複数の投資案がある場合は、もっとも回収期間が短い案を採択するのがセオリーです。
回収期間が短ければいち早くキャッシュを増やせますし、不測の事態で資金を回収できなくなるリスクも小さくなります。
なお投資金額の回収期間を計算する際には、正味キャッシュフロー(税引後営業利益+減価償却費)を用いるのが一般的です。
回収期間法の計算方法
次に、投資金額を回収し終える期間を計算する方法を説明します。各年のキャッシュフローが均等である場合とそうでない場合で計算方法が若干異なるので、それぞれ分けてご説明します。
各年度キャッシュフローが均等額のケース
毎年同じ額のキャッシュフローを得られると予測した場合は、下記の計算式で回収期間を計算します。
- 回収期間 = 初期投資額 ÷ キャッシュフロー
例えば初期投資額が5,000万円で、毎年1,000万円のキャッシュフローを得られる場合、回収期間は5,000万円÷1,000万円=5年となります。
各年度でキャッシュフローの額が異なるケース
毎年得られるキャッシュフローの金額が異なる場合には、初期投資額から各年度のキャッシュフローを差し引きながら回収期間を計算します。
文章で説明するのは難しいので、具体的な例を見てみましょう。
例)以下のケースにおける回収期間
- 初期投資額:5,000万円
- 1年目CF:1,000万円
- 2年目CF:1,500万円
- 3年目CF:1,500万円
- 4年目CF:2,000万円
まず初めに、初期投資額の5,000万円から1年目のCFを差し引きます。
- 5,000万円 − 1,000万円 = 4,000万円(残り①)
次に、残り①から2年目のCFを差し引きます。
- 4,000万円 − 1,500万円 = 2,500万円(残り②)
まだ初期投資額のうち2,500万円を回収できていないので、3年目のCFを残り②から差し引きましょう。
- 2,500万円 − 1,500万円 = 1,000万円(残り③)
まだ初期投資額のうち1,000万円を回収できていないので、残り③から4年目CFを差し引きます。
- 1,000万円 − 2,000万円 = −1,000万円
4年目のCFを引いた結果、残額がマイナスとなってしまいました。
つまりこのケースでは、3年目から4年目の間に投資額を回収できるわけです。
3年目のいつに回収できるかを特定するためには、残り③を4年目CFで割る必要があります。
- 1,000万円÷2,000万円=0.5(年)
つまり3年目のちょうど半分で初期投資を回収できることを意味します。
以上より回収期間法を用いた結果、回収期間は3.5年であると計算できました。
回収期間法の持つメリットとデメリット
最後に、回収期間法を利用するメリットとデメリットをお伝えします。
回収期間法のメリット
回収期間法のメリットは、「カンタンに計算できる点」と「誰が見ても理解しやすい点の二つです。
投資の意思決定手法には、NPV法や収益性指数法などもありますが、これらの手法を利用するには会計やファイナンスの知識をある程度知っておく必要があります。
一方で回収期間法は、上記で見たように四則演算さえできれば誰でもできます。
また回収期間法の判断基準は「回収期間に納得できれば投資する」という単純なものなので、誰が見ても意思決定の根拠を理解しやすいです。
計算のしやすさや理解のしやすさから、あまり会計や財務の知識がない方でも手軽に利用できる点が魅力です。
回収期間法のデメリット
カンタンに計算できる点は大きなメリットであるものの、回収期間法には数多くのデメリットがあります。
もっとも致命的なデメリットは、回収期間後の利益をまったく考慮していない点です。
極端な例ですが、以下の例を考えて見ましょう。
- 3年以内に投資資金を回収できれば投資額を実行する
- 計算した結果、2年で回収できるものの3年目以降はまったくキャッシュフローを得られない
常識的に考えると、3年目以降はまったく利益を得られないので、投資する魅力はほぼ皆無です。しかし回収期間法を利用すると、このケースだと投資を実行するという判断結果となります。
逆に投資資金を3年以内に回収できない場合、たとえ4年目以降に莫大なキャッシュフローを見込めても投資を行わないという判断ミスを下してしまいます。
また、時間価値を無視している点も回収期間法の大きなデメリットです。
投資の意思決定を正確に行うには、「キャッシュフローが発生するタイミング」を考慮する必要があります。何故ならファイナンスの理論ては、1年目に得られる100万円と3年目に得られる100万円とでは、実質的な価値は異なるとみなすからです。
時間価値をくわしく説明すると長くなるので今回は割愛しますが、回収期間法では時間価値を考慮していないために、NPV法や収益性指数法と比べると意思決定の精度が低くなるのです。
以上のようなデメリットがあるため、より質の高い意思決定を行う場合には、NPV法などの手法を用いる必要があります。
NPV法についてくわしく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください!
企業にとって、新規事業の立ち上げや新しく機械設備を購入する行為は大きな投資です。「投資を行うべきか行わないべきか」とか「複数の投資案のうちどれが最も優れているか」を決定するのはとても難しいです。そんな難しい投資の意思決定に役立つ手法[…]
回収期間法のまとめ
投資判断の手法を使えるようになると、明確な根拠を持って投資の意思決定を行えます。
しかし投資判断の手法をつかうには、ある程度財務や会計に関する専門知識が必要となります。
回収期間法は数ある投資判断手法の中でも、専門知識を必要としないため最も簡単に活用できます。
回収期間法は誰でも簡単に利用できるので、ぜひ自身で行なっているビジネスや投資などで活用してみてください!