わずかな量で命を落としかねない毒薬は、慎重に管理・使用しなくてはいけません。
そんな毒薬ですが、実はビジネスでも用いられることがあります。
ビジネスにおける毒薬は「ポイズンピル」と呼ばれ、主に敵対的買収からの防衛策として用いられます。
絶大な防衛効果をもたらしますが、「ポイズンピル(毒薬)」という名の通り、安易に使うと使用者である会社側にも大きなデメリットをもたらします。
今回の記事では、そんなポイズンピルの仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく説明します。
ポイズンピルの意味〜ポイズンピルとは一体どんな手法?〜
まず初めに、ポイズンピルの意味とプロセス、仕組みをご説明します。
ポイズンピルとは、自社の既存株主に前もって新株予約権を付与することで、経営陣の意向を無視して行われる買収を防ぐ手法です。
ポイズンピルは、敵対的買収者がたくさんの株式を購入した際に行使されます。
具体的には、経営権を脅かすほどの株式を敵対的買収者が取得した時点で、既存株主に対して新株をたくさん発行します。
既存株主に対する新株発行により、自動的に敵対的買収者の持ち株比率が低下します。
持ち株比率を低下させることで、敵対的買収者が過半数もしくは3分の2以上の議決権株式を保有し、経営権を奪取する事態を防止できるのです。
上場企業の場合、所有している議決権株式の割合が大きくなるほど、その会社に対して行使できる権限も大きくなります。
例えば持ち株比率が過半数を越えると、役員の選任などの事項を一人で決定できるようになります。
さらに持ち株比率が3分の2を超えると、事業譲渡や資本金の減額といった特別決議を一人で行えるようになります。
つまり理論上は、一定数以上の株式を購入すれば実質的に経営権を掌握できてしまうのです。
上場会社には常に会社を乗っ取られるリスクが付きまとうため、ポイズンピルをはじめとした買収防衛策をあらかじめ検討しなくてはいけないのです。
ポイズンピルでもたらされるメリット
ポイズンピルのメリットを一言で表すと、数ある買収防衛策の中でもとくに防衛の効果が高い点です。
ではどうして、ポイズンピルは敵対的なM&Aからの防衛に効果的なのでしょうか?
買収を防げる効果が非常に高いのは、ポイズンピルには下記3つのメリットがあるためです。
メリット①:敵対的買収者の持ち株比率を強制的に下げられる
ポイズンピルの有する最大のメリットは、敵対的買収者の持ち株比率を強制的に下げられる点です。
そもそも持ち株比率とは、発行している全ての株式のうち、ある特定の株主が保有する株式の割合を意味します。
例えば敵対的買収者が100株のうち20株を持っていれば、持ち株比率は20%となります。
ポイズンピルにより新株を100株発行すると、全体の株式数は200株となります。
一方で敵対的買収者の保有する株式数は変わらないため、持ち株比率は20/200=10%まで低下します。
このようにポイズンピルを行使すれば、強制的に持ち株比率を下げられるのです。
先ほど説明したように、株式会社では持ち株数によって行使できる権限が変わります。
つまりポイズンピルを実行すれば、理論上ほぼ100%経営権を脅かされるほどの持ち株比率を握られずに済むのです。
メリット②:株式の買い集めに要するコストを増やし、買収意欲を削ぐことができる
「持ち株比率を強制的に下げられるとはいえ、相手が諦めずに再び株式を買い集めたら、経営権を奪われるのではないのか?」と思う方もいるでしょうが、ほとんどその危険はありません。
なぜなら新株をたくさん発行してしまえば、敵対的買収者の持ち株比率を大きく下げることで、買収意欲を削ぐ効果が期待できるためです。
ポイズンピルにより持ち株比率が大きく減少すれば、経営権を奪取するために必要となるコストが多大なものとなり、結果的に敵対的買収を諦めざるを得なくなります。
極端な例ですが、49%まで株式を買った時点でポイズンピルを行使され、持ち株比率が一気に5%まで低下したとしましょう。
こうなると、過半数の株式を取得するのに数千億円以上もの大金が必要となり、敵対的買収を強行した方がかえって損することになってしまいます。
その結果、敵対的買収者はやむを得ずM&Aの強行を諦めるのです。
メリット③:ポイズンピルをチラつかせるだけで敵対的買収を未然に防げる
説明してきたようにポイズンピルは、まさに「毒薬」と呼ぶにふさわしい強力な買収防衛策であり、実施すればほぼ必ず敵対的なM&Aを防ぐことが可能です。
そのため、ポイズンピルの準備ができている旨をチラつかせるだけで、敵対的買収者の意欲を削ぐメリットも期待できます。
なおこのような手法は「事前警告型ポイズンピル」と呼ばれています。
ポイズンピルの行使で生じるデメリット
「毒薬」という名前どおり絶大な防衛効果をもたらすポイズンピルですが、行使する会社側にも大きな害を及ぼす恐れもあります。
具体的にはポイズンピルを行使すると、株価の低下や持ち株比率の変化が発生し、既存株主にとって損失をもたらすリスクがあります。
そのためポイズンピルの行使に既存株主が反対し、新株発行の差し止めを請求される場合もあります。
いわばポイズンピルは、「経営権を守るためならば、既存株主に損失を与えることを厭わない手法」であると言えます。
敵対的買収を防止する効果は高いものの、既存株主を敵に回すリスクもあるため、導入に際しては細心の注意が必要です。
ポイズンピルのまとめ
ポイズンピルは毒薬という名にふさわしい威力を有する買収防衛策ですが、既存株主の利益をないがしろにするリスクもあります。
そのため、実際に行使された事例はほとんどありません。
買収者と自社の既存株主の双方に毒となる買収防衛策なので、あくまで「事前警告型」のポイズンピルを導入するのが現実的でしょう。
買収防衛策には他にも、ゴールデンパラシュートと呼ばれる手法があります。
こちらについては下記記事でわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてみてくださると嬉しいです。
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