突然ですが皆さんの周りには、頑なにガラケーを使い続けている方がもしかしたらいるかもしれません。
スマホの方が便利だし使い勝手も良いのに、どうしてガラケーを使い続けるのでしょうか?
その背景には、「スイッチングコスト」と呼ばれるものがあるかもしれません。
スイッチングコストがある場合、たとえ高性能の商品やデザイン性の高い商品を発売しても、顧客に自社製品を買ってもらえない可能性が出てきます。
逆にスイッチングコストを逆手に取れば、他社商品よりも性能が多少低くても、顧客離れを阻止できるかもしれません。
スイッチングコストの仕組みを理解すれば、新規顧客の獲得や市場シェアの維持など、マーケティングに役立つ施策を打ち出せます。
そこで今回は、ビジネスに役立つ概念「スイッチングコスト」について、意味や具体例、応用方法を紹介します!
スイッチングコストとは?スイッチングコストの意味
スイッチングコストとは、「現在使用している商品(サービス)の利用をやめて、他の会社が販売する商品・サービスを利用する(切り替える)際に生じるコスト」を意味します。
スイッチングコストといった場合、購入代金などの金銭的コストのみならず、新しく商品の使用方法を覚える際に感じる面倒臭さなど(心理的コスト)や、購入が完了するまでに要する時間や手間(物理的コスト)も含まれます。
一般的にお客さんは、新しい商品の価値(ブランド力などの定性的なものも含む)からスイッチングコストを引いた残りの価値が、既存商品の価値を上回る場合に商品を購入します。
- 商品の購入に至る条件
→「新商品の価値−スイッチングコスト>既存商品の価値」
つまり理論上は、スイッチングコストを高めたり下げたりすることで、ある程度商品の購入意欲を操作できるのです。
スイッチングコストの具体例
スイッチングコストを理解するのであれば、スマートフォンを例にして考えてみると良いと思います。
スマートフォンには、主にiPhone(iOS)かAndroidの二種類が存在します。両方使ったことがある方は分かるかと思いますが、操作性や使える機能などが全く異なります。
例えばiPhoneを長年愛用していると仮定し、そのiPhoneが故障して使えなくなったとしましょう。
新しくスマホを買う際、選択肢としてはiPhoneとAndroidのどちらかを買うこととなります。しかしiPhoneを長年愛用している人にとっては、Androidを購入すると一から操作方法を覚えなくてはいけません。
スクショの方法やアプリのダウンロードなど、何から何まで違うので使いこなせるようになるまで一苦労です。
そこで心の中に、「新しく操作を覚えなくてはいけない」という心理的なスイッチングコストが発生する人が出てきます。
スイッチングコストが発生すると、「わざわざ操作方法を覚えるのが面倒だから、これまでと同じものを買えば良いな」と思い、結果的にこれまで通りiPhoneを購入するに至る訳です。
中には面倒だと思わない方もいるでしょうが、面倒だというスイッチングコストが生じる方もいる事実は覚えておいて損はないでしょう。
スイッチングコストを高めることで顧客を自社内に留める
スイッチングコストの概念は、うまく利用すれば既存顧客の囲い込みや新規顧客の獲得などに応用できます。
ここからは、スイッチングコストをマーケティングに応用する方法をご紹介していきます。
まずは、スイッチングコストを高める施策をご紹介します。
既存顧客を自社内に留めたいのであれば、「自社製品のスイッチングコストを高める施策」が有効です。
例えばスマホやパソコンなどのIT機器であれば、他社製品とは全く異なる操作方法を設定する施策が考えられます。
自社製品を持っている顧客にとっては、他社製品に切り替える際に「新しく操作方法を覚える手間が面倒」という心理的なスイッチングコストが発生します。
そのため他社製品への買い替え意欲が減退し、自社内に顧客を留めておけるのです。
ただし自社製品のスイッチングコストを高める施策には、大きなリスクも伴います。
例えばスマホであれば、充電コードなどの周辺機器は、全て業界標準に合わせて作られています。
そのため、他社とは抜本的に異なる製品を作ってしまうと、「その製品に合う充電コードが中々売っていない」などの事態が生じる恐れがあります。
そうなると顧客にとっては使い勝手の悪い製品となるため、多少操作を新しく覚える面倒さがあっても、他社の製品に買い換える方がマシとなってしまいます。
スイッチングコストを高めるのは有効な施策ですが、一歩間違えると逆効果なる恐れがあるので注意が必要です。
ただしスイッチングコストが高くても、iPhoneなどのように確固たるブランド力があれば、顧客離れを引き起こすリスクを低減できる場合もあります。
なぜなら顧客が熱烈な自社製品のファンであれば、充電コードを買いに行く手間や、修理の面倒さがあっても、その製品を使い続けようと思うからです。
スイッチングコストを下げることで新規顧客を獲得する
一方で新規顧客の獲得したい場合には、製品のスイッチングコストを下げる施策が効果的です。
ここでも、スマホを例にして考えてみましょう。
iPhoneからAndroidに乗り換える上で、何がスイッチングコストとなるでしょうか?
考えられるものとしては、「手続きや操作性を覚える面倒さ」があります。
簡単に言うと、そうしたスイッチングコストを下げれば(無効にすれば)、他社製品に切り替える障壁が無くなるため、自社商品に切り替えてくれる可能性が高まります。
「手続きや操作性を覚えるのが面倒」と考える顧客に対しては、スタッフが初期設定を済ませたり、サイト上で分かりやすく使用方法を伝える動画などを載せる施策が有効です。
または通信会社のキャリアを変える場合には、「解約費用」が大きなスイッチングコストとなります。
「解約費用が高いから他社キャリアに乗り換えなくない」と考える顧客に対しては、端末代金を実質的に0円にするな施策が有効です(実際にそれっぽいことをやっている会社がありましたね)。
このように、他社製品に乗り換える障壁(スイッチングコスト)を下げてしまえば、新規顧客を得やすくなります。
ただし世の中には、特定のブランドに強い愛着を持っている方が少なくありません。
そうした顧客層に対してスイッチングコストを下げたとしても、購入するブランドを簡単には変えてくれません。
つまり顧客の感じる「既存商品の価値(ブランド)」が高すぎるため、どれほどスイッチングコストを下げても、「新商品の価値−スイッチングコスト>既存商品の価値」とはならないのです。
スイッチングコストを下げて新規顧客を獲得したいのであれば、商品のブランドをあまり意識しない(こだわりがない)顧客にアプローチするのが効果的でしょう。
最後に
今回はスイッチングコストの概念について、意味や応用方法をご紹介しました。
スイッチングコストの考え方をうまく利用すれば、顧客獲得やシェアの維持を期待できるでしょう。
なおスイッチングコストの考え方は、顧客の心理を分析するものでもあります。
顧客の心理的な部分に着目すれば、新規事業のアイデアのヒントを得られる可能性もあります。
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